イカの味の科学

イカ事典 イカ事典
イカの味の科学

イカの刺身の味は、肉の厚いイカ、薄いイカで違います。活イカならばコリッとした食感が味わいをそそるし、厚みのある身なら粘り気があって歯応えに深みがある。ヤリイカの様に身が薄くあっさりした味のもの。蛍烏賊などは又違った味わいで、みな様々な旨味を持っている。

その多様性の原因は、イカは自身の持つ旨味成分が豐富で、グリシン、アラニン、プロリン、タウリン、リジン、ベタイン等のアミノ酸類、核酸関連物質(特にアデノシン一燐酸AMP)、糖類、トリメチルアミンオキサイド等であるといわれている。

活きたイカや魚が元気よく泳ぐ原動力の秘密は、核酸関連物質(生理活性物質)の一種で有るアデノシン三燐酸(ATP)の分解によって生ずるエネルギーによるものでアデノシン三燐酸(ATP)は、生体内で分解すると、下記の様な反応をする。

アデノシン三燐酸(ATP)

アデノシン二燐酸(ADP)

アデノシン一燐酸(AMP)

イノシン酸(IMP)

イノシン(HxR)

ヒポキサンチン(Hx)

活きている魚のアデノシン三燐酸(ATP)の分解は、燐分解酵素の働きによりアデノシン一燐酸(AMP)までしか分解され無い。そこでアデノシン一燐酸は栄養を補給してアデノシン三燐酸に戻る(サルベージ合成)。

ただし、魚が死に筋肉が分解する時には、アデノシン一燐酸(AMP)からイノシン酸(IMP)更にヒポキサンチン(Hx)まで分解し、途中イノシン酸(IMP)という旨味成分を産出して魚の筋肉に旨味を出させるのである。

それが、活きてる時は、呈味成分のイノシン酸(IMP)が生産されないので、活きている魚や釣りたての魚が美味くないのはそのためである。

例えば、マグロが死ぬと、死後硬直が始まり、アデノシン三燐酸(ATP)はアデノシン二燐酸(ADP)、アデノシン一燐酸(AMP)へと燐分解酵素の働きにより順次分解が進み、アデノシン一燐酸(AMP)にアデノシンデアミラーゼ(ADA)という酵素の力が働いて、アデノシン一燐酸(AMP)はイノシン酸(IMP)に分解され、筋肉中に旨味の素である呈味成分が多く蓄積されて、旨い刺身と成る。
イノシン酸(IMP)が最高に達するのは魚が死後硬直から腐敗へと移る前であり、イノシン酸(IMP)からイノシン(HxR)に分解されると味も素っ気もない筋肉に変わってしまう。

この様な分解は、魚類の場合のみにあてはまり、イカやタコが死亡すると、死後硬直から分解へと移る過程で、アデノシン三燐酸(ATP)からアデノシン二燐酸(ADP)をへてアデノシン一燐酸(AMP)迄で、これ以上先へと分解が進まない特性を持っている。

従って、イノシン酸(IMP)にならない為、アデノシン一燐酸(AMP)の味しかない事になる。アデノシン一燐酸(AMP)とイノシン酸(IMP)とでは旨味でははるかに違うことは明らかである。

なぜアデノシン一燐酸(AMP)で分解が止まるかといえば、イカやタコの筋肉中にはアデノシン一燐酸(AMP)を分解してイノシン酸(IMP)へ移行させるためのアデノシンデアミラーゼ(ADA)がないからである。

このアデノシンデアミラーゼ(ADA)という酵素は、マグロやカツオ等の赤身の魚に豐富に存在し、生体から死体へと変わった時に反応が円滑に進むのである。

そこで、活イカの刺身をアデノシンデアミラーゼ(ADA)を付加し、アデノシン一燐酸(AMP)より先へと分解させ、極力イノシン酸(IMP)を生産させる工夫をすれば良いとも思えるが・・・、

実際食感が失われた状態のイカの身に何かを添加して、より強力な旨味に変えるくらいなら、食感が失われていない状態の活イカの身肉に、イノシン酸(IMP)を持つ食材や調味料と一緒に食べるほうが、絶対に美味い!!と考察する。

旨味成分は、違うもの同士を合わせると更に美味しく感じることができると言われており、活イカを美味しく食す科学の基礎として色々な方に、チャレンジしていただきたい。(そのうちWikiでもつくりましょうか・・)

イカ解剖図

イカの旨味成分

イカ事典 イカ事典
イカの旨味

イカには、魚肉の旨味の素であるイノシン酸が存在しないにもかかわらず、独特の旨味があります。これはイノシン酸の前段階のアデニル酸が存在していて、これにイカに少量含まれているグルタミン酸が加わり、旨味が相乘的に増加するためといわれている。

このエキス分は、スルメをおいておくと、表面に白い粉となって吹き出している。
これを「白かびだ!」と言って、食する時に洗い流すのは誤りです。
この白い粉の組成は、多い順に、

タウリン   60.3%
プロリン   16.3%
アルギニン   7.4%
グルタミン酸  3.9%
アラニン    3.3%
グリシン    2.5%
セリン     1.4%
スレオニン   1.2%
フェニールアラニン0.8%
アスパラギン酸 0.7%
バリン     0.6%

このうち、プロリン、アルギニン、グルタミン酸、アラニン等は呈味成分で、スルメをかめばかむ程旨い味が出てくる源です。
※一般的に3大旨味成分とは、
・グルタミン酸
(昆布などに含まれる)
・グアニル酸
(干し椎茸に含まれる)
・イノシン酸
(肉・魚などに含まれる)
と言われております。

イカの食品的価値

イカ事典 イカ事典
イカの食品的価値

イカはもともとコレステロールが多く、健康食品ではないと言われてきました。
確かに水産食品の中でコレステロールの含有量はイカが最も多く、次に海老(えび)・蟹(かに)、第三に魚という傾向が認められるが、最近この点については大幅に見直されています。

イカには、血中のコレステロールを抑制するタウリンという物質が多量に含まれている事が判明したからである。
タウリンは、

視力回復
強心作用
不整脈の改善
貧血予防
血圧の正常化
降コレステロール作用
肝臓の解毒能力強化
アルコールによる肝臓障害改善
糖尿病予防
コレステロール系の胆石を溶かす
新生児の脳の発育促進

など善玉アミノ酸の最たるものであるが、食品中のコレステロール1に対してタウリン2以上のものが、血中コレステロールを上げない健康商品であるとみなされている。

イカの場合、これが2.2~3.1で、
牛肩ロース1.4、
豚肉1.1
に比較しても良い値を示している。
※更に高い値を示す者には、
蛤(はまぐり)14.3、
牡蠣(かき)18.4等がある。

又、イカの蛋白質は約15%で、魚類の20~30%に比較するとやや劣り、アミノ酸も魚類の70%位であるが、イカの蛋白質は非常に良質であり、更に、魚類の約半分という低脂肪とあわせると、ダイエット食品として最適の食品であると言える。

イカ・タコは健康に良い!

イカ事典 イカ事典
イカやタコが健康に良い理由

イカやタコを一括して軟体動物という。からだが柔らかく骨がないからである。
日本人がイカやタコを食べた歴史は非常に古く、大阪から弥生時代中後期の遺跡にタコ壺が出土していて、タコを漁獲し、食べていた事が伺われる。

イカやタコは、悪魔の魚(デビルフィッシュ)として西歐では嫌われている。
ただし、日本人同様に良く食べる国もある。即ち地中海沿岸の国々の国民が然うである。イカやタコを食べ無い国民は、ユダヤ教やイスラム教の宗教圏の国民に多い。宗教的な物に起因しているともいわれている。

イカとタコは、多くの種類が広く世界に分布している。日本の主たるタコは、今のところアフリカ北西部の海域で漁獲されている真蛸(マダコ)系のタコが輸入されており、その主な用途は、酢ダコや茹タコで、関西方面でタコ燒の具としても利用されている。また、イカは、副食として各種の料理に使用されており、ある調査によると、家庭でよく食べる魚介類の中で、青魚に次いで七位に位置づけられている。

イカの旨味は、旨味の筆頭成分であるイノシン酸ではなく、分解過程のイノシン酸の一歩手前のアデノシン一燐酸(AMP)という成分が多く、それにグルタミン酸が相乘して旨味を出している。栄養学的には良質の蛋白質を含み、低カロリーで有るところがダイエット食品としての価値を高めている。

水分は、イカが82%、タコで81%で、魚の約65%に比較して多い。その代わり、蛋白質は、良質では有るが、イカで15%位、タコで16~17%と、魚の20~30%に比較して少ない。

イカやタコで最も決定的な栄養素はタウリンである。タウリンは含硫アミノ酸の一種で、高血圧や脳卒中の原因となる血液中のコレステロールを下げる働きがある事で注目されている。
イカやタコはコレステロールが非常に高いと心配されるが、タウリンの量が多く、しかもコレステロール値を低下させる事が判明したため、急激に話題となった成分である。

タウリンを含む食品の評価は、タウリンとコレステロールの比率(TC比)を求め、この値が2以上なら、たとえコレステロールが多くても、それを減少させるだけの効果があるタウリンが含まれている事になり、コレステロールの心配をしなくても良い事になる。

例えば、食肉の代表で有る牛肩ロースではTC比が0.8、豚肩ロースで0.6で、両者共、タウリンよりもコレステロールが多い。ただし、海産物となると、スルメイカで2.2、マダコで5.6といずれも2以上であり、タウリンが多いため、コレステロールが多くても心配無いという事である。
極めつけは貝類で、蛤(ハマグリ)で13.0、牡蠣(カキ)と成ると18.0と多量のタウリンを含んでいる。
牡蠣(カキ)が食品として秀でている理由は、このタウリンに由来している。又、魚類では、真鰺(マアジ)が3.6、真鰯(マイワシ)が2.3、鯖(サバ)が2.7、秋刀魚(サンマ)が2.6と背の青い魚にタウリンが多い。

PAGETOP